ネクタイが会わせてくれた、彼女
仙台に着くと、傘をさしている人と、傘を持っていない人がいた。
そっか、朝は降っていなかったんだ。
少しでも湿気があると、髪がぼわぼわ膨らむから本当はイヤだけど、
今日に限っては、うれしい。
私は雨の日っていつもツイてるんだ。
私の魂は、ぴちぴちと弾けていた。
私が彼女のことを知った時、それと時期をほぼ同じくして、
夫も彼女のことを別ルートで仕入れてきていた。夫は、
「彼女のことを知っているか?」と私に聞いてきたけど、
知ってるもなにも・・・私の方が先に、彼女を見つけたんだからねって、
張り合っていたあの時は、私達が彼女にこんなにも早く会えることになるとは
思いもしなかったよね。
会いたかった人に会えた。
それは、あの時から既に始まっていたんだ。
ある親切な方が、彼女に会えるチャンスを作ってくれた。
しかも、どっちが先に彼女を知ったかで張り合っていた、夫も一緒に。
そんな簡単に会える人じゃないよ?
驚いているのは、私よりも夫の方でしょうね。
扉を開けると現れた彼女は、言った。
「さっき、会いましたね」
約束の時間が来るまでカフェでお茶をしていた時、
彼女と、すれ違っていたのだった。
インターホンのモニターに映った私達を見て、彼女は気付いたのだろう。
ほら・・・キてる。
彼女に会う前に、もう、私達は彼女に会っていた。
いや、もっと前から、
あの方がチャンスを作ってくれた時から、いや、
私が彼女を見つけた時から、夫が彼女を見つけた時から、
もう既に・・・会っていたような気がする。
あ、会っていたんだ。思考の中で。
このまま子育てで終わると思っていた私の毎日、その思考回路を、
あなたが入ってきて、ぶっ壊してくれた。
等身大の私に、戻るきっかけを与えてくれた。
卵の殻を、もう一度、ぐしゃぐしゃに砕こう。
「ワタナベ薫さん、本日はありがとうございました」
ネクタイ作家 笠原麻子
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