ネクタイが会わせてくれた、彼女

ネクタイ作家

2014年08月28日 00:29

仙台に着くと、傘をさしている人と、傘を持っていない人がいた。

そっか、朝は降っていなかったんだ。

少しでも湿気があると、髪がぼわぼわ膨らむから本当はイヤだけど、

今日に限っては、うれしい。

私は雨の日っていつもツイてるんだ。

私の魂は、ぴちぴちと弾けていた。



私が彼女のことを知った時、それと時期をほぼ同じくして、

夫も彼女のことを別ルートで仕入れてきていた。夫は、

「彼女のことを知っているか?」と私に聞いてきたけど、

知ってるもなにも・・・私の方が先に、彼女を見つけたんだからねって、

張り合っていたあの時は、私達が彼女にこんなにも早く会えることになるとは

思いもしなかったよね。



会いたかった人に会えた。

それは、あの時から既に始まっていたんだ。

ある親切な方が、彼女に会えるチャンスを作ってくれた。

しかも、どっちが先に彼女を知ったかで張り合っていた、夫も一緒に。

そんな簡単に会える人じゃないよ?

驚いているのは、私よりも夫の方でしょうね。



扉を開けると現れた彼女は、言った。

「さっき、会いましたね」

約束の時間が来るまでカフェでお茶をしていた時、

彼女と、すれ違っていたのだった。

インターホンのモニターに映った私達を見て、彼女は気付いたのだろう。


ほら・・・キてる。


彼女に会う前に、もう、私達は彼女に会っていた。

いや、もっと前から、

あの方がチャンスを作ってくれた時から、いや、

私が彼女を見つけた時から、夫が彼女を見つけた時から、

もう既に・・・会っていたような気がする。

あ、会っていたんだ。思考の中で。



このまま子育てで終わると思っていた私の毎日、その思考回路を、

あなたが入ってきて、ぶっ壊してくれた。

等身大の私に、戻るきっかけを与えてくれた。

卵の殻を、もう一度、ぐしゃぐしゃに砕こう。


















「ワタナベ薫さん、本日はありがとうございました」








ネクタイ作家 笠原麻子



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